top of page

​6 僕の王子様

 少し落ち着いてから、僕、思ったんだよね。
 その時、王子様にお姫様抱っこされてたんだって……。

 

 僕は悶えてベッドの上を転がって、発狂ものだった。そんな僕を見て、王寺君は噴き出していた。
 なんだか僕笑われ過ぎてない?

「由川が可愛すぎるから仕方ない」
「王寺君って……印象と違うね」
「ぶっ、由川に言われたくない!」

 ケタケタと笑う王寺君は印象とは違うけど、やっぱりカッコよくて輝いていて、見惚れてしまう。
 僕がうっとりと王寺君を見ていると、王寺君の顔から笑みがスッと引いた。

「詩って呼んでいい? 俺も詩の特別になりたい」
「べ、別にいいけど。特別とか……ないし……」
「詩。俺、特別が良い。馳なんかよりももっと特別になりたい」
「……っ」
「付き合って欲しい」

 凛々しい顔でそう言ってくる王寺君。
 僕はまた顔がカッカと熱くなって、俯いた。こんな気持ち初めて。

「………う、うん」

 僕が小さく答えると、王寺君は、「おっしゃあああ!」とガッツポーズで叫んだ。
 王寺君が何だか子供みたいだ。そんな王寺君もとっても可愛くてカッコイイ。

「詩、俺のことも永って呼んで?」

 永?
 はるか?
 呼ぶの? 下の名前で? 王寺君のこと?

「……は、はる……――そ、そんなの呼べるわけないでしょー!」

 僕にはハードルが高すぎた。
 保健室に響き渡った僕の声に、王寺君はまた噴き出して、「しかたないな」とまた僕の事をホールドする。

「でも、いつかはちゃんと呼んでほしい。約束して?」
「……うん」

 僕は嬉しそうな王寺君の声に負けて、頷いた。
 王寺君の笑い声がすぐ傍で聞こえる。
 僕から体を離した王寺君と目が合って、王寺君がにこりと優しい微笑みを浮かべた。
 その表情がとってもカッコよくて、僕はただ魅了されていた。

 どんどんその顔が近づいてきて、ふっと唇に何かが触れた後も、僕は数十分間反応することはできなかった。

「で、無事付き合い始めたんだな?」
「……はい。その通りです」
「ま、両想いなのは知ってたから、いつかはって思ってたけど。時間かかったなぁ」
「しんちゃん! それはどういうこと?!」
「いや、お互い見つめ合ってんの気付かないとか、どれだけ鈍感、とか思ってみてた」
「な、な、な!」
「でも俺が言ったって、詩は絶対信用しなかっただろ?」
「うっ……」
「いいんだよ、時間がかかった方が、想いは深くなるしな、氷の女王様?」
「――っっっ! そ、それ言わないで恥ずかしい!」
「ま、王寺は絶対に詩の中身暴露することはないから、安心だな。その容姿で、根暗ヒキコモリストーカーとか楽しすぎだからな」
「う、うるさい!!」
「――うた」

 凛と響く声。
 しんちゃん以外に僕を下の名前で呼ぶのは、あの人しかいない。

「王寺君……」

 叫んでる所見られちゃった……。
 

 でも、

「叫んでる詩も可愛いな」

 って言ってくれる王寺君は、僕にとって本当に王子様なんだ。






 

END

bottom of page