3 観察中止……?
寝てない。
王子様が寝てない。
王寺君は窓に凭れる様に座って、図書館内を眺めている。
「はやく寝てよ」
僕はぶつぶつと呟いた。
王寺君を眺めるために取って置いた本たちを片づけに行かなきゃいけないのに。
僕のことなんて気にならないはずだし、自意識過剰なのは分かってる。
でも彼の視界の中に入るなんて、恥ずかしくてできない!
どうしよう。
この溜めておいた本たち。
図書委員のお仕事サボって、お昼休み任せられない、なんてことになったら困る。
委員長として恥だし、なにより王寺君の寝顔が見れなくなっちゃう!
カウンターの奥の部屋からこっそりと顔を出して、王寺君の様子を窺った。まだ彼の目は冴えているようで、凛々しい光を放っている。
きっと、そのうち寝るよね?
僕は意を決して、ワゴンを押した。
気にしなければ大丈夫大丈夫。うん。
すまし顔でワゴンを近くの本棚の間の通路に押し込んで、ささっと隠れる。
本数冊を腕に抱えて棚にしまいつつ、いつものように王寺君の姿を棚板の隙間から覗いた。
けれど、さっきまであった所に王寺君の頭がない。慌てて棚の端っこからそっと顔を出してみると、王寺君がテーブルに突っ伏している姿が目に入った。
やっと寝てくれたみたい。よかったぁ。
僕は手早くその列の本をしまい、ワゴンをゴロゴロと押しながら王寺君と棚ひとつ隔てた通路に入り込んだ。
ここからだとじっくり王寺君の寝顔が見れるんだ。窓辺のテーブルが彼の特等席なら、ここが僕の特等席と言える。
はっきりくっきり王寺君の顔のパーツが見えちゃうんだよ。
シャープな印象の眉も、瞼を縁取る長い睫毛も、形のいい薄めの唇も。
くちびる……。
「…………」
はっ!
いやらしい目で見たりなんかしてないよ!
で、でも、僕だって、年頃の男。ちょっとはキスとか、その先のほにゃほにゃとか気になるよね。
別に王寺君としたいとかは思って………ないよ? ない、ないない。
うんうん、見てるだけ見てるだけ。
「なに見てんの?」
えっと、王寺君をね――、
「――――っ!!?」
どこからともなくかかった声に、僕はびっくりして飛び上がった。
棚を隔てて向こう側の王寺君が突っ伏したまま目が開いて、こっちを見ていた。
に、逃げろー!、と心の中で叫びつつ、普段にはない俊敏さでワゴンを放置して、委員専用の小部屋に突進した。
後ろ手にドアを閉めて、破裂しそうな胸を押さえる。
大丈夫大丈夫。ほんの狭い隙間から見てたから、僕だってことはバレてないはず。
「はぁ、心臓に悪い……。寝たふりなんて卑怯な奴め」
次、観察してるの見られたら、絶対不審者認定されちゃう。ストーカーとか言われたら僕泣くよ、ホントに。
困ったなぁ……。
ちょっとの間、観察中止?
はぁ、僕の目の保養が……がっくりだ。